【怪物★アフターストーリー】002 ドンシクのマンションにて
002. ドンシクのマンションにて
その時、ドンシクはマンションの一室でケガの手当てをしていた。
ハンギファンに任命されソウル庁観察調査係へ一度は入ったが、やはりドンシクには強力班があっているようだ。調査係の方でもドンシクを持て余していたためちょうどよかったのだが、、、。
2日間張り込みの末、大格闘して捕まえたチンピラに脇腹を刺された。
刺されたと言っても、とっさにかわしたので深い傷ではなかったが。
長年警察官をやっていると、コレくらいの怪我はわざわざ病院に行かなくても良いと思ってしまう。、、、悪い癖だ。
簡単な手当の後、上からしっかりテーピングしてキズが塞がるのをまつ。
明日は非番なので、母を妹の墓参りに連れて行ってやりたいとおもっていた。
しかし、車椅子を押すとなると流石に脇腹の傷が相当痛そうだな、、、。
マニャンの事を考えると、どうしても思い出すことがある。
そう、3ヶ月ほど前に最後に見たジュウォンの寂しげな微笑みだ。
子供の頃から親と引き離されて育ってきたせいで、人に頼る事を知らない。しかも、父親が警察のお偉いさんだと知ると色々言い寄ってくるので、友達すら作らずに育ってきた。
「どうしてるかな…アイツ」ポケットから携帯を取り出す。
しかし、こんな夜中に連絡もできないし、してもどうせ煙たがられるだけだろう。
またポケットにしまおうとした。
すると、ちょうどその時、バイブの短い音がして、メールが届いた。
差出人はジュウォンだ。
「ㅜㅜ」
?なんだこれは? 涙マーク? 何かの暗号か??
それとも緊急事態?
慌てて電話するドンシク。
すると、しばらくして電話の向こうのジュウォンは
「…一体なんですか?こんな時間に?」
平静を装っているが、少し息が乱れている。
自分からメールを送っておいて、電話がかかってきたら慌てているのか?
ドンシクはイヤミたっぷりに言う。
「ハン警部、こんな時間にはこっちのセリフですよ?」
「え?」
「謎のメール送ってきたから心配になって電話してあげたのにぃ」
「え??えっ???」かなり慌てている。
どうも、メールを送ったのは本当に気がつかなかったみたいだ。
ジュウォンは、「ポケットに入れてたら、勝手になっちゃったみたいで」と言うが。。。
ドンシクは、笑いを堪えるのがやっとだ。もし、本当にポケットに入れていて送ったのだったとしても、ドンシクとのメールの画面を出していなければ、勝手に送信する状況にならないだろう。
笑うと先ほどのケガが痛むのでやっとのことで笑いを堪えている。
「本当です!」ジュウォンの焦った声が聞こえてくる。
「OK。…本当だとして、こんな夜中にメールで起こされた俺に、ハン警部は何をしてくれるのかな?」
更に追い込みをかけるドンシク。
「二日間完徹して張り込み、犯人捕まえてボロボロになって家に帰ってきて、やっと眠りについた。その一時間後に謎のメールで起こされてぇ…」
やや芝居がかっているとは思ったが、半分はウソではない。
「わ…分かりました!すみませんでした。何でもしますから言ってください!」
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電話を切った後、「コレだからジュウォンは可愛いんだよな。」
ドンシクはつぶやいた。
そう言えば、あの頃もそうだった。
あの頃、妹探しが長い間行き詰まり、犯人もわからぬまま時効が迫っていた。
もし妹が失踪ではなくすでに死んでいるとしたら、、、
時効延長や廃止案が成立した韓国でも、その成立より前に起きた事件には適用されないからだ。
そんな時、自分を犯人だと決めつけ、中央からわざわざマニャン派出所へ転勤してきた現場経験の少ないジュウォンを操るのは、人生経験豊富なドンシクにはたやすい事だった。
ドンシクは、自分が犯人かと思わざるを得ないような振る舞いをワザとジュウォンに見せつけて、長年ただの失踪事件としか扱われていなかった妹ユヨンの事件を、連続殺人事件の一つとしてもう一度捜査するように仕向けたのだった。
、、、しかし、まさか、その妹を殺した真犯人が、ジュウォンの実の父であるということまでは、さすがのドンシクも途中まで気がついていなかったのだが。。。
003へ続く