【怪物★アフターストーリー】006 降り出した雨
006.降り出した雨
「ハン警部、今日は助かったよ。」
「僕は…何も」ジュウォンはハンドルを握りながら少し照れる。
「いや、今まで何度も母を墓参りに連れて行ったけど、あんなに楽しそうだったのは、今日が初めてだよ。」
ドンシクは本当に嬉しそうだ。
「あんな事で喜んでもらえるなら、非番の日ならいつでも。」
「俺も久しぶりにたのしかったよ。」
「…。」
「まだ時間あるなら、行きつけのバーにでも、、、」
「…だったらウチに来て飲みませんか?」
ジュウォンは、まだ作りたての料理を食べさせてないのが気になっていたのだ。
「確かに、昼前に行った時に棚に高そうな酒がいっぱい見えたからな(笑)」とドンシク。
「それに、今度こそ温かい食べ物、ご馳走しますよ。」
その時電話のベルが鳴った。ジュウォンの携帯だ。
服役中のジュウォンの父 ハン・ギファンが、自殺を図ったとの知らせが入ったのだ。
ドンシクは動揺するジュウォンの車を止めさせ、運転を代わってやり警察病院へと急いだ。
いつのまにか降り出した雨は、遠くに雷鳴を轟かせている。
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「自殺など弱い人間のやることだ」そう言い放った本人が、今度は自殺しようというのだ。天下のハン・ギファンも弱くなったと言う証なのかもしれない。
終始無言でくちびるを結んだままのジュウォンに、ドンシクは、
「大丈夫だよ。きっと。。。」
と言うのが精一杯だった。
父を嫌い、遠ざけてきたジュウォンだが、たった1人の肉親だ。
あんな親でもいなくなると思うと不安だろう。
夕方の帰宅ラッシュのせいで、道が混んでいてなかなか辿り着けない。
ドンシクは焦る気持ちを抑えてハンドルを握りしめていた。
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警察病院へ着くとジュウォンは、車から父の部屋へ急いだ。
囚人服のままのハン・ギファンが個室のベッドに横たわり、両手は自殺防止のためか手錠でベッドの端に固定され、部屋の中と外には何人もの私服警察官が見張りをしていた。
ドアの隙間から見ても点滴しか繋がっていないところを見ると、容体は安定している模様だ。
見張りの私服警官の話では、幸い、首吊り自殺を図ったものの、すぐに発見されたので助かったのだそうだ。
しかし、下に降ろすときに落ちて頭部に打撲があったのと、情緒不安定のため大事をとって検査を受けたと言う。
今は精神安定剤を打ったので落ち着いて眠っているようだった。
病室から看護師が出てきたのを見ると、ジュウォンは駆け寄って話しかけた。
やはり、一時的に窒息して気を失ったものの、打撲だけで済んだらしい。脳や骨の検査結果も問題なかったようだ。
しかし、どうやら今回でもう自殺未遂は3回目だという。
それを聞いて、ジュウォンが心配になるドンシクだった。
ドンシクは、憔悴し切ったジュウォンの肩を抱いてしばらく病院の待合室で座っていた。雨の中傘も持たずに車から走り降りたので、髪から雫が滴っている。
「病室に入らなくていいのか?来た事だけでも伝えたら…」
「いえ、僕が行っても余計いらだたせるだけですから。」
ジュウォンは少し落ち着いてから、もう一度だけ病室のドアと開け、父の顔を見てから病院を後にした。
007へ続く