【怪物★アフターストーリー】007 涙の向こう側
007.涙の向こう側
憔悴したジュウォンを1人には出来ず、ドンシクは部屋まで連れて行く。
ふらつくジュウォンをベッドに座らせると、ポットのお湯をカップに注ぎ、冷蔵庫に入っていた柚子ジャムを混ぜて柚子茶を作りベッドサイドへ運んできた。
「疲れている時は、暖かいものを飲んだ方がいい。今日は酒はやめておこうな」
ドンシクは優しく言うとマグカップを手渡す。
もしドンシクがいなかったら、ジュウォンは朝まで酒を飲んでいた事だろう。
ジュウォンは無言でうなずくと、マグカップを取り、半分ほど飲んでから顔を上げた。
「ありがとうございます。なんか、少し元気になった気がします。」
無理に笑ってみせるジュウォンの瞳は潤んでいて、とても1人置いておく気にはなれない。
ドンシクは、ベッドに倒れながら「あ〜、今日はもうこんな時間だし、このまま寝かしてくれよ。明日の朝になったら出てくからさ。」
「え?!そんな💦じゃ、僕はあっちで」
とソファーのある部屋へ立とうとするジュウォンの肘を引っ張り、自分の腕の中へ。
「今日、膝枕してくれたお礼に、今度はオレが腕枕してやるよ。」
「いーですよそんなの!」
「遠慮すんなよ。泣きたい時は思い切り泣いた方がスッキリするぜ。」
ジュウォンは、その言葉を聞くと、ドンシクの腕の中で涙を堪えることが出来なかった。
涙を見られるのが恥ずかしいのかドンシクの胸に顔をうずめる。
「う…。」肩を震わせて無言で泣き続けるジュウォンの背中を、母親のようにポンポンと叩いてやるドンシク。
思えば、幼い頃に母と引き裂かれたジュウォンには、そんな経験すらなかったのかもしれない。そう思うと、自分が守ってやりたいような気持ちになるドンシクだった。
ーーーーーーー
次の日、朝日がカーテンの隙間から差し込んでいる、そろそろ起きる時間か?
ドンシクは左腕の感覚がおかしいのに気がついた。腕が痺れている。
昨晩ジュウォンに腕枕したまま2人とも寝てしまったのだ。
ドンシクの左腕に頭をのせ寝ているいるジュウォンの頬には、涙の跡が残っている。親指でそっと涙の跡をなぞる。
まだあどけなさの残るジュウォンの寝顔を見ていると、なんだか不思議な気持ちになるドンシクだった。
しかし、そろそろ腕の痺れに耐えられなくなって来た、、、。
「イテテ…。」左手のひらをにぎったり開いたりしてみる。
その声を聞いて、ジュウォンが目を覚ました。
目と目が合ってビックリしたのかあわてて布団をかぶるジュウォン。
次の瞬間ジュウォンの叫び声が部屋に響き渡った。
「〜〜〜〜‼️」
「…あ、昨日寝てる時に雨に濡れたままだったから、パンツとアンダーシャツだけ残して、あとは脱がしてやったよ」
「なっ!?😱」
「あ、それと、オレンジ色のブリーフ似合ってたよ」
「💢ーーーー!」
ドンシクはほっぺにデカい手形をつけられた。
ーーーーーーー
ダイニングキッチンで向かい合って朝ごはんを食べる。
誰かと朝ごはんを食べるなんて、なんか久しぶりだ。
ジュウォンは昨日思い切り泣けたおかげで、なんだかスッキリした気分になっていた。
今まで抱いていた父へのわだかまりや、ドンシクへの複雑な思い。自分の劣等感も含めて、昨日の夜ドンシクの腕の中で涙と一緒に洗い流したような不思議な感覚を覚えていた。
やっぱり、自分にとってドンシクは特別な存在なんだろう。
先輩?パートナー?それとも…自分でもよくわからないが。。。
思えば、一番初めにドンシクの存在を知った時。警察官になりたてのドンシクの写真を見た時のデジャヴにも似た不思議な感覚。
それから、まるで吸い寄せられるようにマニャンの連続殺人事件に引き寄せられ…
まさかこんな風に自分の部屋で一緒に朝食を食べる時が来るとは、夢にも思ってもいなかった。
この人といると、いつも自分のペースを乱される。。。でも、それがいつしか心地いいと感じるようになっている自分がいる。
もしかしたら、自分も「トライ(変人)」の仲間入りしてしまったんだろうか?
そう思うと、思わずクククと笑ってしまうジュウォン。
今まで誰も信じずに生きて来たジュウォンに、信じられる誰かが出来たのかもしれない。
ドンシクは1人笑っているジュウォンをけげんな顔で見ている。
「ひどいな、一晩中腕枕してあげたのに、いきなりたたくなんて。お目覚めのキッス💕の方が良かったのに、、、」ドンシクは頬についた手形を撫でている。
「だって、変なこと言うからですよ。」
「変じゃないだろ?似合うって言っただけなのに」
「💢もう一発殴りますよ?!」
雨上がりの朝、木漏れ日と笑い声がジュウォンの部屋に溢れていた。
【怪物★アフターストーリー】END
008へ続く