【怪物★アナザーストーリー】023.山火事の裏側
023.山火事の裏側
数日前、チームの会議を行う。
全体の流れをジュウォンとドンシクが説明する。
チーム長は横で苦虫を噛み潰したような顔をしているが、今までのドンシクの手腕を知っているので、グッと我慢している。
もしも失敗した場合はドンシクが責任を取ると言うのでやむなく承諾したが、山火事を作るなど本当にうまく行くのだろうか?、、、。
会議の後ドンシクはジュウォンとチャンスに色々と指示書を渡した。各行政、消防等に提出する書類や、電話して根回しするところ。あとは付近の住民へのビラだ。
行政には、ドラマ撮影のため敷地を使い通行止めにする事が簡単な絵コンテと、平面図入りで書かれている。ドラマの撮影と言えば大韓民国はなぜか協力的だから文句も言われない。
提出主はディメンション・ワールドになっている。もちろん了承済みだ。
念の為、カメラの位置や出演者の人数、プロジェクター、移動式バッテリーやサーキュレーターなどの台数も書いてある。後で何か言われた時に困らないためだ。
付近の住民には、撮影のため一部通行止めになることや、ドラマの公開前に、SNSで拡散した場合には法的に処罰されるので、絶対しない様にという趣旨の内容を配った。
(もちろん、このビラを見て逆にYoutubeなどにアップする者が出る事を予測してだ)
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山火事当日。ディメンション・ワールドのスタッフ達は、山の反対側から現地入りし、静かに設営が進んでいる。
山の中のあちこちにスクリーンをテキパキと取り付ける。
夕暮れ。そろそろ本番スタートだ。
カチンコには「シーン1 山火事発生」と書いてある。
ディレクターのキューでカメラを回す。カチンコの乾いた音が響く。
崖と林のあいだに設置したスモークマシンで、煙を少しずつ出す。 次第にあたりは白いモヤに包まれていく。
それと同時に、別の噴霧器からは、木の焦げた、臭い(これは今回のために特別に作ってもらった)を噴霧。
ディレクターがプロジェクターチームにキューを出すと崖の壁面や、ゆらめく炎を模した布に映像が映され、あたかも炎が上がっている様に見える。
さらに、サーキュレーター(送風機)に布を貼り付けた装置にスイッチを入れると、下から炎が噴き上がっているようだ。
スモークマシンから出る煙にも赤々と炎が映るため、見た目には辺りは灼熱の地獄と化している。
次第に音響も大きくなり、パチパチと火の粉が弾ける音、ゴーッと炎の唸る音がリアルに響き渡る。
そろそろ仕上げだ。
ディレクターがトランシーバーで指示を出す。
役者さん達が「火事だー‼️山火事だー!」「助けて〜!!」「きゃー‼️」「誰かー!水を!!」とにかく大騒ぎだ。音響さんがわざと山に反響させる。
そろそろ、林の向こう側の転生院の中の人達も気がついている頃だ。
間近で見ても本物みたいだが、林の向こう側から赤々と燃え盛る木々や、ものの焦げる臭い、響き渡る叫び声は、誰がどう見ても本物の山火事そのものだった。
ドンシクからのメールの合図で、ディレクターが最後のキューを出す。
転生院の付近の林の中に隠れていた役者1が、ヨタつきながら転生院へ。
中から顔を出している人を見つけると
「大変!早く逃げてー!山火事がっ!!すぐそこまで燃え広がってて、ここも危ないですよっ!!」と叫んだ。
その頃には、異臭に気がついたのか、転生院のあちこちで窓を開けて外を見て、呆然としている人、慌てて何か叫んでいる人も出てきた。
さらに火の手は大きくなり、遠くから消防車のサイレンも聞こえて来た。もちろん音響効果だが。
ディレクターが更にキューを出す。
役者2が、走って来て、
「あんた達何してるんだ!!こんなとこにいたら焼け死ぬぞ!!」と言って走りすぎていく。
役者1も慌ててその後ろを追いかける。
それをみて、入り口で対応していた信者は血相を変えて中へ戻っていった。
修道院の中から人が出てきて、入り口の向こう側の床面がパックリと口を開け、地下からゾロゾロと人が上がってきている。床に隠し扉があったのだ。
ドンシクたちは、すかさず前に会った教祖を見つけると「こんばんは。他に部屋ありましたね。」といい
「前に言ったこと、忘れてませんよね? 他に部屋はないと、、、あの時のあなたの言葉も、録ってありますよ?」
偽教祖は諦めたのか、地面に座り込み「俺は何も知らない!雇われてるだけなんだ!」と半泣きだ。
ジュウォンから無線が入り、「少女達を発見ました。生きています!救急を呼びます!」その声は涙声になっていた。
「ドンシクさん、、、カンナも生きていました!」
ドンシクは、ジホに電話をかけた。
「作戦成功。協力ありがとう。君のおかげでたくさんの命を救うことが出来たよ。」
そして、、ドンシクはチーム長にも連絡を入れた。
RT製薬の社長宅近くで連絡を待っていた強力班のチーム長たちの別班が中に踏み込んで、社長を確保した。
チーム長は、この役をやる事で、ドンシクに作戦を許可したのだ。
(もちろん逮捕できなかった時にはドンシクの勝手な単独行動で処理するつもりだったが、、、。)
024へつづく